怪談

【良質 怖い話】霊峰の猿【自然をナメるな】

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日本全国には霊峰と言われる、昔から信仰の対象になっている霊験あらたかな山々があります。
それらは、神聖な場所。本来は、人がうかつに足を踏み入れてはならない場所なのだと思われます。
なので、そこで起こることは、我々の住む世界の理の範囲外のことであり、そのことを、善悪で指し図ることは恐れ多いことと思います。
それがいかに恐ろしく、理不尽なことであっても。

 

 

四国ではあまり全国的に有名な心霊スポットがない。
超常現象が起きても殆ど噂にならないのです。

仕事がてら地域のご老人に話を伺う事が多く、みんな様々な不思議体験を語ってくれますが皆、口を揃えて「狸に化かされたんだ」と言います。

不可解な事があっても自然現象だと納得する。不思議な事など何も無い。
そんな国民性があるように思います。

祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に 霊峰、四国では有名な霊山に
登ってきた。

死んだ爺さんが毎年熱心に参拝していたので、後を継いで私が行く運びとなったのだ。

相方も行きたがっていたが、初日は女人入山禁止という事でお留守番して頂いた。

祖父の遺品には修山服の他に参拝札みたいな物があって「何回訪れたのか」というのが分かるようになっているのだが、曽祖父の頃から続けているらしく、山麓で札を奉納すると今年で64回目との事だった。

ツアーバスで来ているワケではないので移動には時間が掛かる。
最低2日必要な日程だっただが宿泊費も惜しいので中腹の山小屋で泊まる事にした。

山小屋といっても管理者が一人居るだけの簡易休憩所で広さ4畳しかない。
おまけに何か臭い。

初夏の蒸し暑さと薮蚊にウンウン言いながら寝ていると深夜、いきなり

『ドーーーーン!』という音がして飛び起きた。

続けて『ゴゴゴゴゴ』や『ドドドドド』と地響きの様な音が聞こえる(JOJOじゃないです)。

飛行機か何かですかと管理の爺さんに聞くと、「山では良くある事」とのことだった。

私がしつこく食い下がると、
「まともに何度も聞いたら寿命が縮む。早よ寝れ!」
慌てて目を瞑った。

次の日、日が昇る前から立つことにする爺さんが「朝はやめとけ」と言うが、
私が 正午までに登って下山したい旨を云うと「猿に気ィつけろ」とだけ念を押された。

しばらく歩くと高さ100㍍、角度は70度を超える崖に着く。

べらぼうに高い、下から見上げるだけで眩暈がする。

そこには2本の長い鎖が打ち込まれており、それだけを足場にして登れというのである。

kusari
おそらく、このような物だと思われます。

実際 祖父に連れられ、何度か来た事はあり いつもは迂回ルートを通っていたが、
今年こそは..と若さ故の過ちか 鎖場のルートを選んでしまった。

朝露で鎖が湿って滑りやすい、四苦八苦しながら半分くらい登った頃足元で
『お~い』 と呼ぶ声がした。
うっかり下を見てしまう、霧でよくは見えないが高さで頭がクラクラする。
もう一度、足元で
『お~い』 と呼ぶので返事をしようとした――

瞬間、
背中がズシッと重くなった。
身体全体がガクンと揺れた。
何かが、
何かが背中にしがみ付いている!

私を落とすつもりか、背中に乗ったソレは身体を揺すり始める。
続けて頭に巻いている絞りをグイグイ引っ張り始める。
こんな態勢では振り向くことも出来ないが、確かに腰に絡みつく毛深い足が見えた。

「猿!?」

この高さで落ちて、只では済まないだろう。
鎖の隙間に 手、足、としっかりはめ込んで
なんとか振り落とされないようにする。

下で怒号がする。
甲高い声で、今度は

『 落とせ~ 落とせ~! 』と。

そして背中のヤツは私を何度も揺する。
ハチマキが脱げると今度は髪の毛を引っ張り始め何本もブチブチと抜かれる。
あまりの恐怖に私は目を瞑ったまま泣き喚いた。

何分経ったろうか、私がじっと我慢していると下の方で、『 チッ 』と舌打ちが聞こえ。
フッと背中の重みがとれた。

その後、ビクビクしながら鎖を登り終えると、一番近い宮社まで駆け込んだ。

爪でガリガリになった修山服を見せながら、一部始終を説明する。

宮司は難しい顔をして、
「腐っても霊場だ、今から私が言う話は聞かなかった事にしてくれ」
そう前置きし、語り始めた。

これだけ険しい道な為、確かに落下事故も起こりはするが、死傷者などは滅多に出ない。
稀に起こる事故の大半は独りで登った者が遭うのだそうだ。
落ちた人間は揃って、『猿に襲われた』という。

何でも、この山の猿の中には人間そっくりの声で叫ぶ猿が居て、早朝や夜、独りで登ろうとするとだれもいないハズなのに自分を呼ぶ声がするという。
それが本当に猿なのかどうかは分からないが。

前々年も一人、早朝に登った参拝者が 崖から落ちた。
発見された時にはまだ息が有ったらしいが、病院に着く前に亡くなったのだという。

「もう少し見つけるのが早かったら」と宮司は呟いた。

私が「まるで見たかのように話しますね」と聞くと

「...見つけたのはワシだからな。
猿ども、割れた頭から脳みそ掻き出して食っていやがった」

宮司は吐き捨てるようにそう言った。
出典:死ぬほど洒落にならない話を集めてみない?part132

 

恐ろしい話ではありますが、この話により、山は禍々しい場所であるとか、邪悪な猿がいる、などと思うのは間違いな気がします。
人間も自分たちのために山を削り、そこに住む者の命を脅かしてきたわけですし。
最初に述べたとおり、人間の善悪で指し図ることは恐れ多いことと思います。
自然に対する敬意と、自分たちが特別ではないと言うことを知らなければなりませんよね。
要は、自然をナメるな、と言うことだと思います。

 

 

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